【帯広刑務所編】起床・点検・シャリ三本! 時は金なり、命なり《懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.12
■起床・点検・シャリ三本
また、違う席の片隅では、こんな話をしている。
「今週木曜日は待ちに待ったオレの可愛い子チャンが会いに来るんだ。ヒヒヒ」
「知ってるよ。だって、木曜日はエロ本の配本日だもんね。ははは」
「何言ってんだよ。自分だって、大阪から毎月女が来てるだろうが。大阪のエロ本雑誌『浪速の鉄人』がさ、ヒヒヒ」
すると側にいる、今度は別の仲間の一人が、「山チャン」と呼ばれている札幌の放火魔をからかう。
「ところで山チャン、よく同じエロ本の女ばかりでセンズリこけるね。飽きねぇ? エロ本、もうぼろぼろじゃないの。たまには新しい本、賞与金で買って、違う新鮮な女でシコシコしなよ」と言う。
「ほっとけ! オレは浮気はしないの! 賞与金も使わないの!」
てな調子で、エロ本雑誌の女に操を立てたりして、すっかりエロ本雑誌の女を自分たちの愛のマスコットガールにして喜んでいるフリーキーな奴らの席があったりして、短いお昼の時間、それはそれはもう、いろいろな人間模様を描きながら、工場中様々な話題で喧騒を極める。
また、現役の不良の人間を中心に、剣呑な空気を醸している連中がある席の片隅にいた。その連中はストーブの周りで談笑している門野にチラチラ目を遣りながら、ときどきヒソヒソとやっている。
休憩が終わると担当の号令がかかり、ボクたちは2階の食堂から工場中央の白線のところに降りて行って整列。そこで担当の気合の入った点検となった。点検は日に十数回、その都度行われるのである。
この点検について、刑務所ではよくこんな風に受刑者たちにいわれている
「起床・点検・シャリ三本、明ければ満期が近くなる」
刑務所の一日は、起床して夜寝るまでの間、点検と飯を繰り返し、また夜になって寝れば、また朝が来て満期が近くなるという、毎日の単調な生活の繰り返しのことをいっているのである。
単調は退屈である。しかし、単調ゆえ、過去の受刑生活を振り返ってみても、何の想い出もないから短く感じられ、精神的に救われている部分もあるのだ。
塀の中の過去にあるのは、ただ、白い壁と受刑者の灰色の服の色だけであった。
しかし、そんな〝空白〟とも思える受刑生活も、大事な人生の大切な時間なのである。
その時間を益あるものに変えていくか否かは、自分の心ひとつなのである。
時は金なり、命なり。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
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